酒と鮭とマヨネーズ

好きなものについてとか、思った事だとか。

横山裕主演舞台、「ブルームーン」。とりとめもなく、思う事など。

※千秋楽を迎えたということで、ネタバレ満載の感想記事です。

 

2015/02/07に発表。2015/05/23に東京・グローブ座ではじまって、06/28に大阪・森ノ宮ピロティホールで千秋楽を迎えた、舞台「ブルームーン」。終わっちゃったんだなあ、と思い返している現在です。横山さん、カンパニーの皆様、本当にお疲れ様でした。思い返せばあっという間でした。

あらすじはこう。07/03 18:00までの公式サイトより、覚え書きです。

向坂ユタカ(横山裕)は実家の寺を仕方なしに継ぐ事が決まっていて、
恋人の蒲谷ルミ(マイコ)がいるが、長く付き合い過ぎたせいかそれ以上の進展はない。
そんな煮え切らない二人をユタカの父親の向坂オサム(山崎一)は、イライラしながらも見守っている。
檀家で写真館を営む石渡はま子(加賀まりこ)が法事の相談をしに来たある日、燕尾服を着た謎の男が寺の二階から現れて……。

実を言うと、観る前は不安だったりしました。単に好みの問題で、恋愛ものってあんまり響かない質なんです。だから、このあらすじを読んで、楽しめるかなあ、なんて余計な心配をめぐらせたりして。

でも、それはもう、完全に杞憂でした。面白かった。可愛くて愛おしい、まさしくロマンチック・コメディなんだけど、私はなんか、恋愛とか結婚が主題のようでしてそうではないように受け取りました。

ユタカが、人生という舞台で主人公として踊りはじめるお話だったなあ、と。
仕方がないとばかり言って、自分は上手に踊れないから、あの人たちのように輝いてはいないから…と、外野だと思い続けていたユタカが、ラストシーンでスポットライトがあたって。不器用な仕草で踊りはじめる姿に、ぶわーーーっと胸が熱くなりました。最後の紙ふぶきのシーンは自然と涙が出た。よかったねーーーって、声を出したいくらいでした。
彼は迷っていたけれど、実は自分で答えを言っていたと思うんですよね。みつえさんに向かって、「あなたの人生はつまらないものじゃない」と言ったり、はま子さんに、「あなたのお墓は僕が守ります」と言ったり。自分の人生を卑下して、いじけて、くすぶって。その彼が、華やかなダンスシーンで、スポットライトもあたらずルミの名前を叫ぶシーンは本当に胸が痛くて。でもそこで胸が痛かったからこそ、最後のシーンで、本当に本当によかったねと、自然と歓声をあげてしまいたくなるし、拍手したくなるんだと思いました。
■ 鏡合わせの過去と現在

作中でも何度か触れられているんですが、ユタカ/ルミ/中華街の人(ルミに気があるらしいダンサー)の関係性と、みつえ/トニー/ケイトの関係性は似ています。ただ、性別だけが逆転している。現在と過去が、鏡合わせのような関係になってる。
そこで、すごく面白いなと思ったのが、ユタカがシンパシーを感じる相手がみつえだって事です。タイムスリップ先は昭和12年。でも、「家を継がなくてはいけない」「結婚で相手を自分の人生に巻き込んでしまう」悩みを抱えていうのが女性であるみつえなんですよね。そのみつえの言葉に、「キターー!」とか、「染みたーー!」とか、何度も共感を口にするユタカくん。実際価値観が似ていました。
この鏡合わせのお陰で、すごくフラットな気持ちで「結婚の悩み」に感情移入できたと、後から気が付きました。「女だから、家庭に入らなければならない」…というような文脈を感じなかったんだと思います。ユタカの悩みはみつえの悩みに、トニーの悩みはるみの悩みと類似点があってそれぞれが抱える境遇と苦悩が性別と結びついてないっていうか。だから、純粋に、これからの人生の選択をどうするのかっていう話として観れたんだと思うんですよね。
個人的にとても好みなバランスでした。恋愛、結婚っていうとても個人的な価値観に踏み込んでるけど、間口が広いというか、その辺の話になかなか感情移入出来ない私みたいなタイプの人でも、すごくすんなり感情移入出来て。
鏡合わせの過去と現在。繋ぐ人ははま子さんで、変える人はケイトかなと。住職は受け皿というか、そこに変らず存在してる人っていうか。
■ ユタカとみつえ、トニーとルミ
似たもの同士であるユタカとみつえは、自分のつまらない人生に、華やかで素敵な、輝いている恋しい人を巻き込んではいけないと悩んでいます。自分の気持ちを言わず、でもちゃんと態度では分かってしまうから、なんともじれったいふたり。
本当の想いを伝える事が、必ずしも自分の願った結末にはならなかった。ユタカはその事に落ち込むけど、結果として、みつえさんはきっと将来の後悔を抱えずに済む。つまり、未来は変えられた…。トニーが、「ここでアメリカ行きをやめたら、僕はきっといつか彼女(みつえ)の所為にする」と言うんですが、これはルミもそうだったんじゃないかと思うんです。
仕事に疲れて、これが私のしたかったことか?と悩んで。10年来付き合った恋人には安定した職があって。ここでプロボーズのひとつもされれば、OKしちゃってもいいんじゃない?みたいな。そういう状態だったんじゃないかなあ、と。もし、そのままずるずると結婚していたら、ユタカはルミの夢を諦めさせてしまったと思い続けたろうし、ルミもいつか、自分の人生の選択をユタカの所為にしてしまったのかも知れない…。
傷つける事を恐れて押し黙って、結局後悔を抱えてしまいがちなみつえとユタカが、自分の気持ちを口にすることで、トニーやルミがちゃんと選択出来るんですよね。「相手のために」というのではなく、「自分のために」選択した結果として、一緒に居ることにする。ちゃんと伝えて、伝わって、よかったねと思います。
トニー河村は、まさしく「夢」の象徴でしたね。ミュージカルスター!という動きが舞台に華やかさと夢を与えていて。ユタカが嫉妬するのも無理ないなと思う。そして、ユタカはルミも同じように輝いて見えてたんだなあと思うと、彼の抱えるコンプレックスの根深さを感じます。だって、ルミだってトニー(夢)に憧れる人だしね。ああ、ほんと、最後はユタカとルミが等身大で向き合えて、よかった!幸せだった!
■ ケイト立花について

ケイトが好きです。力強くって。ケイトはトニーが私の全てというけど、彼女の言うトニーは「夢」そのもので、彼女は夢に恋してたんだと思います。そして、「自分の運命は自分で切り開く」という彼女の言葉で、ユタカは行動を起こそうとする。変化のきっかけを作ったのはなんだかんだ彼女じゃないかなって。
自分が嫉妬してた対象である「中華街の人」に似てる彼女から道を示されるというのは不思議な感じだけど、ユタカの嫉妬は同時に「そうありたかった」という憧れでもあるから、腑に落ちるところでもあって。最後に彼女の「それから」が分かって良かった。ユタカも気になってたんだな~なんて、嬉しくなりました。

■ はま子さんについて

はま子さんと、トニーとみつえとのシーンはもう、涙なしに観れないものでした。すごかった…。はま子さんを観るトニーの笑顔が優しくて、はま子さんが何か言いたそうなのに肝心な事は言わずに、でも感極まった顔をしていて。その空気と、声に、胸が震えずにはいられなくって。「想いを伝える」ということの意味を痛いほどに感じるシーン。
そのはま子さんが、自分が死んだら母に言うのだと、「私たち馬鹿だねえ、無縁仏になっちゃったね」という言葉を口にするはま子さんに、「お墓は僕が守る」と言うユタカ。もうこの言葉で、目の奥がつーんとなりました…。ユタカ、ユタカはかっこいいよ。君の人生はつまらないものなんかじゃないじゃないか。そう思えて。
はま子さんは、どうしても両親の本当のところが知りたかった。特に、まったく覚えがない父が、母をどう思っていたのかを。そのはま子さんの想いがタイムスリップを引き起こしたんじゃないか、とルミが言うシーンがあります。そうだとしたら、やっぱりはま子さんは繋ぐ人なんだろうな。
はま子さんは未婚の人なんですよね。そのはま子さんのお墓を、ユタカくんが守る。それは確かにはま子さんが生きていく中で生まれた「縁」なんですよね。人の営み、というものを考えてしまうし、慈しんでしまう。

■ 住職について

ユタカのお父さん。作中一番笑いを取っていたんでは!?ってくらい名言が多い、ひょうきんで面倒見の良いちょっとメンドクサイいいお父さんです。可愛い。ユタカのチャーミングさは絶対お父さん似だと思う。将来落ち着いたらこうなるのかしら…とかほっこりしちゃいました。
先々代もそっくりということで、現代でも過去でも変らず「ご住職」です。お寺、という舞台設定自体、時代を越えて共有出来る舞台なんだけど、そこに住まう「ご住職」も似た存在だったなあと思います。出てくると安心するよね。それぞれの平穏、って感じで。

 

…考えれば考える程、愛おしい人たちだったな~~と思います。チャーミングな、ロマンチック・コメディって、まさにその通りだと思う。難しいところにうまーく立ち入らずに、でも丁寧に描いて。この可愛くて愛おしい作品の座長として横山さんがやりきったということも誇らしいし、横山さんをきっかけにしてこの作品に出会えたこともすごく嬉しいです。横山さんが出なかったら、観なかった舞台だろうから。ありがとうございます。横山さんはいつだって、素敵な出会いと夢を私にくれるよなあって。大好きです。

ブルームーンの感想は、ひとまずこれで。自分の中でまとまりきらないですね。まだまだ思い返せば、脈絡のない色んな想いが巡ってくる。ひとつひとつ、宝物にしようと思います。まとまらない話にお付き合いいただいてありがとうございました!

 

■ 最後に余談

ルミが、「貴方の仕事に夢がないなんて思った事ないの」と言っていましたが、私もその通りだと思ってまして。何ってね、お坊さんっていま面白い事一杯やってるじゃないですか(話の本筋から大幅にはずれてます!)

例えばこれとか。

これとかね。

仏教ルネッサンス塾

 

ボーズ・ビー・アンビシャスだよ、ユタカくん!!!応援してるね!!!!