酒と鮭とマヨネーズ

好きなものについてとか、思った事だとか。

味園ユニバース、感想。


□ 注意書き

「味園ユニバース」感想です。具体的な内容に言及した部分には一応断りをいれています。その先は、まだ観てない方は読まない方が良いかも。後、思った事を思うままに書いたのでいつも以上に読み辛いかも知れませんごめんなさい…。

長いのでトピックス。

  • 「味園ユニバース」、映画全体から感じた事とか
  • ちょっとだけ映画館についての話

----ここからネタバレ

  • 茂雄(ポチ男)について感じた事とか
  • カスミについて感じた事とか
  • どこにも収まらなかった感想とか

それではいきます!

 

□ 「味園ユニバース」、映画全体から感じた事とか。


「味園ユニバース」は、「LaLaLa at Rock Bottom」、だった。決して人に誇れる生き方はしていない人たちが、大阪の街で生きている。そこに音楽がある。そういうお話。

世間一般的に描かれる「幸せ」からは距離があって、貧しさやどん詰まり、ありふれたどん底の気配をそこかしこから感じます。でも、そこに生きてる人たちはあっけらかんとして、どこかのほほんとすらしている。だから、映画全体から、生きてるなあ、っていう静かで確かな実感がありました。

街並みがほんと実物そのままに映されているところとか、食事シーンに副菜がないとか、生活音がとても丁寧に作りこまれていたりとか。世界観の説明は不親切なくらいない映画だけど、そういう画面や音の説得力のお陰で、すんなりと受け入れられます。考えなくてよくって、そこにいればいい、って感じ。

そして、「カスミ」と「ポチ男」以外は風景のようでした。良い意味で、ふたりだけが人物として浮き上がっているように見えた。味園ユニバースと、街並みと、赤犬含めその他の登場人物は、「大阪の日常」で、あのふたりだけが人物、って感じ。勿論、浮いてる訳じゃないんですけど、いい意味で埋もれてない。

「これを伝えたいんだ」みたいに突きつけてくるような映画ではないんですけど、有り様そのままが、こういうものだよね、と染み入る映画です。「正しさ」がない映画。出てくる人たちみんなどっかで何かを間違えたような人たちなのが、とても心地よくって(でも実際そういう人ばっかですもんね、もちろん私も)。

後は、やっぱりとにかく、音楽の説得力がすごかったです。情報量が少ない短い映画なので、映画自体が1曲音楽を聴いているような感覚で。歌のようだなって思ったので、辻褄とかそういうのにあんまり意識がいかず、面白かったと感覚で受け取れたって感じです。

私は関ジャニ∞のファンで、勿論、渋谷すばるも好きな訳なんですが、萌えとかときめきとか、いい意味でありませんでした。すっとそこに居て、観て、じんわり染み入るものを大切に味わう、って感じで。

うん、なんていうか、好みの映画でした。映画館で観て欲しいです、是非!!

□ ちょっとだけ映画館についての話

詳しい人に聞きましたが、映画は音量が命だそうで。ダイナミックレンジというらしいですが、雑に言うとたっくさん幅広く音を使っているので音を絞ると全部再生できないんですって。
私自身そこまで映画を観てきた訳ではないんですが、「味園ユニバース」は贅沢に音を使ってるな~と思いました。さすが音楽映画。
なにって、観れる人は音の大きい映画館で観て欲しい、って事です。東京なら新宿バルト9とか!ブレスすら生々しいくらい爆音!

まあこればっかりは好みの問題もあるんですけどね…。詳しい人曰く、音量は映画館側の裁量なので、「音、小さくない?」ってご意見するのも手らしいですよ。地元の映画館に要望してみるのもいいかもしれないですね。
余談でした!!

 

 

 (--以下は具体的な内容に触れてます。観てない方は注意していただけましたら…--)

 

 

 □ 茂雄(ポチ男)について感じた事とか。

「茂雄はクズだけど歌だけはやめられなかった」。この一言で全部が説明されていたなあって。確かに彼の人生は"クズ"なんですよね。実の姉に、実家の稼業、借金、子どもまで押し付けて、自分は実刑判決まで受けた。執行猶予がつかなかったみたいなので、初犯じゃなかったんじゃないかと思う。悪意があるかないかとか経緯とかはさておき、取り返しのつかない加害行為を繰り返してきた。
周囲の人間からしたら、本当にたまったものではないですよね。お姉さん夫婦に子どもがいない事について思い至りそうになって、しんどくて考えるのをやめました。自分の家に行ったら当然自分の子どもがいるもんだと思って誕生日プレゼントを持参した茂雄に対して、色々思うところもありました。当然じゃないから、それ。っていう…。
だから、茂雄がおもちゃの銃を自分の子どもにプレゼントしようとするシーンは痛々しくてたまらない気持で見ていました。自分の子どもがいくつになったのかも知らない。今、何が好きなのかも分からない(少なくともいつも読んでる本から、銃とかじゃないのは明白だもんね)。お姉さんは、「この子の中にはあんたはないない」と言ったけど、茂雄の中にも今の「この子」はいないんだと思う。自分の思う、「自分の子ども」はいるかも知れないけど。
で、姉に拒絶されて自棄になって、すぐさま過去の悪い仲間のところに行ってしまう、っていう。センシティブで短絡的な、そういう幼さのある人だと思いました。そうやって、「間違えてきた」んだなって。
その彼に残された、「古い日記」が吹き込まれたカセットテープ。彼の中に「歌」だけ残ることになった、その原体験。記憶を失った時、「歌」だけだったのがまた辛い話だよなあと私は感じまして。「父」ではなく、「歌」が残った、というのが。記憶を取り戻した後も、「父」への想いは語られなかった、というのが。
「古い日記」、なんだか親子の歌に聴こえたなあと思って、何度も口ずさんでしまいます。「好きだったけど愛してるとか 決して決して言わないで」とか「都会の隅でその日暮らしもそれはそれでよかったの」とか。「愛も大事にしなかった」、とか。何度も繰り返されるそれが、とても切ない。父にしろ姉にしろ女(嫁?)にしろ子どもにしろ、自分さえも、茂男は上手に大切に出来なかった。
ラストはまさに、「茂雄はクズだけど歌だけはやめられなかった」んだっていう感じでした。自棄になって、もう死んでたんだと当り散らした彼だけど、赤犬とかカスミとかは特にそこには頓着しない。元々彼の歌しか知らないし、それ以外を問うたことはなかったし。のほほんとあっけらかんと、彼を受け入れてる。最後のタカさんの行動、笑ったし、泣きそうになりました。大好き。
死んでなんかないじゃないか、生きてるじゃないか。最後歌って笑う茂男を見て、「しょーもな」、と言いたくなりました。あ、泣きそう。


□ カスミについて感じた事とか。

ポチ男(茂雄)に対して、自分も間違ってばっかりだ、と彼女が言うのが、たまらなかったです。たまらない気持ちになりました。周囲の反対を押し切り高校に行かず、スタジオを切り盛りしながら赤犬のマネージャーをする生活。納得ずくだし、堂々と振舞っていた彼女も、正しくないと思って分かってそれを選んでいたんだな、というのが。
02/15から止まった時間。正装が制服なところ、人生が狂って止まった感じがして、切なかったんですよね。行くはずだった高校の、制服は先に作ってた、って感じが(制作側の意図はさておき、私はそう感じた、ということで)。それに、あの服装のおかげで、彼女が本来はそういう生き方を選択しなくてもいい歳であることを思い出せるんです。結果とてもよかった。
そして、カスミが、「母」でもなければ「女」でもないのが、またすごくよかった。茂雄の生き方ややり方に文句をつけることも説教することもなく、清清しく勝手で豪快、明快。
カスミの世界はとても狭いし、彼女はそれを自覚していました。私は、彼女には「捨てきれず引き摺ってるもの」を沢山抱えてるんだなと感じていました。
茂雄が歌を捨て切れなかったように、カスミも捨てきれず引き摺ってるものがある。他人からしたら価値がないかもしれないものを、どうしても捨てられない。それ故に、「正しい」道は選ばなかった。人間の人生ですよね。私もそうだし、きっと誰でもそうなんだと思う。
カスミが5本の指を開いて、そして握りこんで、茂雄に殴りかかるシーン。あの仕草を見たら、きっと茂雄は5本目がなんであるか、なんとなく分かったと思うんです。あれと、ポチ男ノートで言葉で語るより如実に、茂雄は自分がまだ生きている事を感じたんじゃないかと思う。自分は死んでいたと彼が語るのは、肉体的な死ではなく、誰の胸の内にも自分という存在がいない、ということだろうから。
カスミははっきりと、自分の世界に彼がもういることを突き付けた。そして後程バッドで殴って取り返しに行った。間違ってばかりだ、と自己評価するけど、彼女は常に堂々として心地よく勝手でした。かっこよかったです、本当に。茂雄は自分以上に勝手な人にはじめて会ったんじゃないかな、とも思いました。


□ どこにも収まらなかった感想とか

ホームレスが自分の拾ったものを引き摺って歩くシーン、そこからポチ男をが自分の作業着を取り返すシーン。あのシーン、ものすごく象徴的だなと感じていました。「捨てきれず引き摺って歩く」、自分の記憶を、あの日誰からに奪われて捨てられたものを、ごみの中から取り返す。
取り返して嘔吐するポチ男を引きで映したところが好きです。ああ、と声が漏れそうになりました。

監督が度々、「恋愛にならないように気を付けた」と言ってましたが、そこがすごくよかったと個人的に思っています。こだわってるの私だけかもしれませんが(笑)!
恋愛感情ってすごく強い動機付けなので、音楽があんまり関係なくなっちゃうと思うんですよね…。少なくとも、「音楽に救われる」話じゃなくなっちゃうなって。「音楽」、ただそれだけに救われてる話だから、「LaLaLa at Rock Bottom」なんだよな~って思ったんです。だから、すごく、よかった!!

…とりあえず、以上!長々とした話にここまでお付き合いくださって本当にありがとうございましたー!!